Hold Me Tight

 ある平日の午後。たまたま仕事が休みだったので、アンティーク高崎に行くために出かけることにした。アンティーク高崎のドアを開けると、アコースティックギターの音が聞こえてきた。有線放送とは違う、生のギターの音だ。

その音はどこから来るのかたどっていくと、レジのカウンターの後ろで揺れるふわふわ癖毛の茶髪頭が見えていた。高崎さんだ。

「高崎さん、ギター弾かれるんですね」

「おーいらっしゃい。平日の真っ昼間に珍しいね」

「はい。今日仕事はお休みなので。高崎さんこそ、ギターを弾いてるとこ初めて見ました」

「今日はお客さん来なくて暇すぎてね。川原くんも今日はいないし」

 川原さんがいないのも珍しいことだ。

「何弾いてたんですか?」

「いろいろテキトーに。さっきはビートルズ弾いてた」

「私ビートルズ大好きです!」

「へぇ〜若いのに渋いねぇ」

「60年代〜80年代の洋楽が好きなんです」

「いい趣味だねぇ。なんかリクエストして。なんでも弾くよ」

「そんな即興でなんでも弾けるんですか?」

「うん。いいよ、なんでも。あ、ここ座りな」

 高崎さんは近くにあったスツールを引っ張り出して私に差し出した。私は彼の隣に座って彼の生演奏を聞くことにした。

「じゃあ、ビートルズ縛りしていいですか?」

「いいよ。僕もビートルズ好きだよ」

「それじゃあ…ヒア・カムズ・ザ・サンお願いします!」

「いいよー」

 彼はギターを抱え直し、軽快なメロディーが彼の指から奏でられた。しかも生歌つきだ。彼の少しハスキーな歌声は洋楽に合っているような気がした。彼は1コーラスまでを演奏してくれた。

「すごいです!そのまんま!」

 私は思わず拍手を送った。

「いや適当だよ?」