Hold Me Tight

「でもなんか、名前の字面、私は好きですよ」

「そう?名前の字面が好きなんて初めて言われたぞ」

 彼はいささか嬉しそうに笑った。

「1回インクをつけたらどのくらい書けるんですか?」

「だいたい便箋1枚分くらいは書けるよ」

「そんなに書けるんですか。何度もインクに浸けないといけないのかと」

「きれいなだけじゃなくて、機能性も高いでしょ。はい」

私は彼から再びガラスペンを受け取った。私はひとしきり試し書きをしたあとで、購入を決意した。

「これ、いただけますか?」

「買うだろうと思ったよ。インクは何色がいい?いろいろあるけど」

「えっと、青色のインクありますか?このガラスと同じような色の」

「ちょっと持ってくるね」

  彼はきれいなコバルトブルーのインク壺を持ってきた。

「これでいいかい?」

「はい、それで」

「ほいじゃ包むね〜」

 私は彼の後を追ってレジに向かい、丁寧に梱包してもらった。

「そんなにじっと見つめられると照れるんだけど」

「え?あ、すいません。いつも丁寧に梱包されるなと思って」

 ついつい彼のきれいな所作に目を引かれてしまうのだ。

「商品を包むときはね、『大事に使ってもらえよ〜』って念を込めながら包んでるの」

 彼は目を細めて笑った。やはり、私が思った通りだった。ひとつひとつの商品を我が子のように大事にしているのだ。

「はい、お待ち遠様」

「大事に大事に使いますね」

「うん、ありがと」

 彼はニッと笑って軽く右手を上げた。私はぺこりと頭を下げてその場を後にした。

すぐに後ろで「すいません、高崎さん」とすぐに他の客から声をかけられているようだ。高崎さんはいつも客に声をかけられ、誰かと話している姿を見ることが多い気がする。誰にでも気さくでなんでも答えてくれるから話しかけやすいし、商品について詳しく話が聞けるためだろう。