Hold Me Tight

 高崎さんの商品解説を聞いて買った最近の雑貨はガラスペンだ。

「ガラスペンって本当に書けるんですか?」

 私は、竹軸の先についたコンバルトブルーのガラスのペン先を訝しげに眺めた。ガラスは螺旋状に溝が彫られていて見た目はきれいだが、機能性はどうなのだろう。

「ガラスペンを舐めてもらっちゃ困るね。書き味もいいし普通のつけペンよりインク持ちがいいんだよ。試してみる?」

「いいんですか?」

「こっちおいで」

  私は彼に連れられて、店の中央のあたりにある小さなテーブルについた。

「ちょっと待っててね」

 彼は店の奥へ行き、紙とインクを持って戻ってきた。私の隣の椅子に座り、インクの蓋を開けてペン先をそれにつけた。

「ペン先の溝にインクが入り込んで、ペンの先端にインクが流れ出すようになってるんだよ。ほれ、なんか書いてみ。ちょっとずつペン先を回しながら書くとかすれないで書けるよ」

 私は彼からガラスペンを受け取り、とりあえず自分の名前を書いてみた。言われた通り、ゆっくりとペン先を回しながら書く。なるほど、さらさらと滑らかな書き心地だ。

「『市川莉緒(いちかわりお)』」

 書いた名前を読まれただけなのに、なんだか気恥ずかしい。しかもやけにハキハキと読むので余計に。

「莉緒ちゃんって言うんだ。かわいい名前だね」

 名前を知られたのはこのときが初めてだった。しかも下の名前に「ちゃん」付けなんて気恥ずかしい…。一気に距離を詰められたような気がした。

「高崎さんの下の名前はなんていうんですか?」

「ペン貸して」

 彼は軽妙な筆致で自分の名前を書いた。

「『高崎洋司(ようじ)』…。洋司、さん?」

「なんで疑問形なの」と彼は軽く笑って、「そうだよ。普通の名前でしょ」と続けた。