Hold Me Tight

「すいません、閉店時間過ぎてるのに」

「いやいや、随分楽しそうに見てたからさ、いい買い物して帰ってほしかったんだよね」

「私、そんなに楽しそうでした?」

「うん。こういうの本当に好きなんだろうなぁって思ったよ」

  無意識にニヤついていたのだろうか?だったらとても恥ずかしい。

「この店気に入ってくれたならまたおいでよ」

「はい。お店の商品、私の趣味にハマってて好きなものばかりです。仕事帰りに寄りやすいですし。また来ますね」

「おう」

 店主はひらひらと手を振って私を見送ってくれた。気さくな人だ。


 その日の夜、お風呂上がりに缶ビールを開け、買ったばかりのタンブラーグラスに注いで飲んだ。なんだかいつもよりおいしい気がした。この日から、タンブラーグラスが晩酌のお供になった。

時々シーリングライトで透かしてみたり、部屋を暗くしてライトを当ててみたりしてグラスの色合いを楽しんだ。光の当て方で表情が変わるこのグラスは、今では私のお気に入りだ。

 それからというもの、週に1、2回はアンティーク高崎を訪れるようになり、いつの間にか店の常連になっていた。頻繁に訪れるものの、高価な買い物になるので、通う度に吟味に吟味を重ねて、実際に購入することは月に1回程度だ。いつも買わずに品物を眺めるばかりの私を、店主の高崎さんも店員の川原さんも咎めることはなかった。

高崎さんがいないことが多く、川原さんが実質お店を切り盛りしているらしい。高崎さんがいるときは、よく気さくに商品の解説をしてくれる。彼がいると充実度は一段と高い。散々解説を聞いた挙句買わないことも多いが。