Hold Me Tight

 このときは、骨董の行商などでもして店を空けることが多いのかと思ったが…。「ギター」、「歌」、「ツアー」というキーワードから考えてみると、ひょっとしたら音楽関係者なのではないかと思い至った。

「高崎さんって何者なんですか?」と本人に直接聞く機会は案外早く回ってきた。早く回ってきたと言っても、高崎さんのギターを初めて聞いてから2週間ほどが過ぎた頃だが。

「この店の店主」

 彼は、「この子は何を言っているんだ?」という目で、キョトンとしていた。

 時間は閉店間際で、客は私しかいない。思わず声が大きくなった。

「じゃなくて、アンティークショップは本業じゃないですよね?」

「え〜僕の本業?」

「本当は、音楽関係者なんじゃないかと思って」

「あら〜バレちゃったか〜。僕の本業はね、こっち」

 レジの脇に立てかけてあったギターを抱えて、ポロンと鳴らした。

「ギタリスト、なんですか?」 

「バンドでアコギ弾いてんの。今度近場でコンサートやるけど来る?興味ないか」

「いや、行ってみたいです!いつですか?」

「そう?えとねぇ、ちょっと待ってね」 

 彼はズボンのポケットからスマホを取り出した。スケジュールを確認しているらしい。

「来月の28、29日にあるけど、どっちが都合いい?土日だけど」

 土日は仕事がないし、特にこれと言って予定は入れていない。

「どっちも空いてますよ!」

「たぶんまだチケット余ってると思うから、僕の方でいい席がある方の日のチケット用意しとくね」

「いや、悪いですよ。自分で取りますから」

「うんにゃ、招待するよ。特別ね」 

 彼は少し首を傾げてニカッと歯を見せて笑った。「特別ね」という言葉にドキッとした。

「また明日から僕はしばらく店空けるけど、川原くんにチケット預けておくから適当なときにまた来てよ」

「ありがとうございます!」