中規模商社に勤めるしがないアラサーOLである私の唯一のオアシスは、通勤途中の道沿いにある「アンティーク高崎」というアンティークショップだ。店内は決して広くはないが、所狭しと置かれている和ガラス、食器、アクセサリーなど、アンティーク雑貨は古めかしくも品があり、見ているだけで心惹かれるものがあった。

 私は何かと古いものに惹かれる子どもだった。音楽はビートルズを始めとする60年代〜80年代の洋楽が好きだし、子どもの頃の趣味と言えばビー玉とおはじき集めだった。社会人になり金銭的に余裕がある今は、気に入ったアンティーク雑貨やアクセサリーを買い集めてはひとり満足に浸っている。私の趣味にぴったり合うようなものばかり置いてあり、しかも仕事帰りにふらっと寄れるアンティーク高崎に足繁く通うようになったのは、当然と言えば当然のような気がする。

 初めてこの店に入った日のことを今でも鮮明に覚えている。あれは本社に異動したての春のこと。異動後の初出勤、慣れない業務で精神的にも身体的にも疲弊していて、重い足取りで歩く帰り道だった。トボトボ歩いていると、ある店の前でふと足が止まった。朝の出勤時は閉まっていて気づかなかったのだが、明らかにまわりの店とは風格が違う。店のショーウィンドウに陳列された雑貨たちに目を奪われ、私のアンティーク好きの心を駆り立てた。私は吸い寄せられるように煌々と灯りの洩れるその店に入っていった。店内に足を踏み入れると、アンティークショップ独特の匂いに私の心は踊った。まるでタイムスリップしたかのように、ここだけ空間が違うように感じる。

「いらっしゃーい」

 と伸びやかで軽快に来客を迎える声が店の奥で聞こえた。声のする方を見ると、レジ前で商品の梱包作業をしている店主と思しき40代くらいの男性が立っていた。目が合ったのでぺこりと頭を下げた。

「いらっしゃいませ」

 私のそばを大きな段ボール箱を持って横切って行ったのは、私と同年代くらいの若い男性だった。おそらくここの店員だろう。店主と違って無愛想そうだ。