セイデリア王国第二王子フェリクス・セイデリア、十九歳。

 突然目の前で愛しい婚約者のエステル・ダンシェルドを連れ去られてから、早くも五年もの月日が経っていた。


「……フェリクス! 今日こそは、貴方の婚約者を決めますからね」
「国内の貴族の令嬢を軒並み集めたのだ、必ず気に入る娘がいるだろう」


 朝食の席で、父上と母上が僕に詰め寄る。

 五年前の争いがきっかけで、隣国ダンシェルド王国と我がセイデリアとは、完全に国交が途絶えたままの状態だ。両国の国境にある森にはダンシェルドの手の者によって呪いがかけられ、通行することができなくなってしまっている。

 でも僕は今でも、エステルの柔らかくて穏やかな笑顔が忘れられずにいた。

 あれから五年、エステルはもう十七歳になったはずだ。
 僕たちの婚約はいつの間にか白紙になり、父上と母上はいつもこうして、僕に新しい婚約者をあてがおうと躍起になっている。そんな毎日にも、もう飽き飽きだ。


「父上、母上。私は婚約者どころか、結婚するつもりもありませんよ」
「……フェリクス! お前はこの国の第二王子なんだぞ。王太子に万が一の事があった場合に補佐する立場にあるのだ。そのお前が独身のままでは、国の存続すら危ういではないか!」
「そうよ、フェリクス。少しはこの国のことも考えてちょうだい。ねえ、アンドリューからもどうにか言ってくれないかしら」


 突然話を振られた兄アンドリュー・セイデリアは驚いて、飲んでいた水をぶっと吹き出した。