豪華なシャンデリア、美味しそうな料理、そして一流の楽団のオーケストラ演奏。

 これでもかと言うほど(ぜい)を尽くした夜会会場に、全力でギラギラに着飾った貴族のご令嬢たちが次々とやって来る。グリーンのドレスのご令嬢が多いのは、僕の瞳の色に合わせたつもりだろうか。

 ……エステルなら、絶対にそんな色は選ばない。

 優しく穏やかで少し大人びたエステルには、薄紅色(うすべにいろ)のドレスがよく似合っていた。二人で遊んで息が切れるまで走り回った後の、エステルの頬の色、エステルの笑顔を思い出す。

 二度と会えない、大切な人。


「フェリクス殿下、こちらは我が娘のアレットでございます」
「殿下、アレット・ミドルダムと申します。本日はお会いできて光栄でございます」


 モスグリーンのドレスを身に着けたアレット・ミドルダム嬢が、僕の前で仰々しくカーテシー。

(何だ? これは出来レースか?)

 年の近い高位令嬢であるアレット嬢の姿を見て、向こうの方で父上と母上がニヤニヤと見つめ合っている。なるほどな、やはりこちらのご令嬢が父上と母上の本命というわけだ。

 そうは問屋がおろさない。周りの思うとおりになんて動くものか。

 苛立(いらだ)った僕は、おもむろにミドルダム侯爵の方に向き直り、両腕を組んで低い声で言った。


「ミドルダム侯爵、そう言えば貴殿の領地では今、色々と問題が起こっているそうですね」
「フェリクス殿下。何のことでございましょう……! 特に大きな問題なく過ごしておりますよ。我がミドルダム領では、領民からの納税もきっちりと遅れなくしっかりと徴収できております。そんなことよりも、我が娘アレットの件でございますが……」
「そんなこと……ですか。侯爵、もしかして貴殿は、自領で起こっている問題を把握すらしていないのですか? そんなことよりも、王家に娘を嫁がせることの方が重要ですか?」
「殿下……!」
「さあ、王都でこうして油を売っている暇はありませんよ。為すべきことを為すのが先決です。ミドルダム領では、呪いの森に住みついた賊が強奪を繰り返し、治安が乱れていると聞いていますが」


 僕はでっぷりと太ったミドルダム侯爵に冷たく言い放った。
 ざまぁ見ろ。これ見よがしに親子でゴマをすりに来るからこんなことになるんだ。

 僕はこのあとミドルダム親子とは目も合わせず、一人でテラスに向かった。背後で侯爵が色々と言い訳しているのが耳に入ったが、僕の知ったことではない。