【完結】エレベーターに閉じ込められたら、恋に落ちました。


 
 お礼を伝えると、橋本さんは「大したことはしていませんので」とメガネをスッと上げる。

「あなたは本当に、おっちょこちょいですね」

「すみ、ません……」

 ご、ごもっとも……です。

「ここの掃除はもう構いませんので、別の所をお願いします」

「は、はい。……し、失礼します!」

 私は橋本さんの前から立ち去ろうと、身体の向きを変える。

「時枝さん」

 しかしなぜか、再び呼び止められる。

「は、はい」

 今度はなんだろう……?

「暖房、ありがとうございます」

「え? あ、いえっ!」
 
 えっと……それだけ?

「じゃあ私……行きますね。失礼します!」

 私はその場から立ち去るため、試作室を出る。

「び、びっくりしたっ」

 急に呼び止められると、心臓バクバクする……。なんでなんだろう?

「え、なんで……?!」

 何で私、こんなに耳赤いの……!? 

 鏡越しに見る私の耳が、不思議なことにとても赤くなっている。

「え、どうして……?!」

 まさか! さっきの、お姫様だっこのせい……?

 いやでも、あれは私を助けてくれたからであって……。わざとじゃ、ないし。
 そうだよね……?