お礼を伝えると、橋本さんは「大したことはしていませんので」とメガネをスッと上げる。
「あなたは本当に、おっちょこちょいですね」
「すみ、ません……」
ご、ごもっとも……です。
「ここの掃除はもう構いませんので、別の所をお願いします」
「は、はい。……し、失礼します!」
私は橋本さんの前から立ち去ろうと、身体の向きを変える。
「時枝さん」
しかしなぜか、再び呼び止められる。
「は、はい」
今度はなんだろう……?
「暖房、ありがとうございます」
「え? あ、いえっ!」
えっと……それだけ?
「じゃあ私……行きますね。失礼します!」
私はその場から立ち去るため、試作室を出る。
「び、びっくりしたっ」
急に呼び止められると、心臓バクバクする……。なんでなんだろう?
「え、なんで……?!」
何で私、こんなに耳赤いの……!?
鏡越しに見る私の耳が、不思議なことにとても赤くなっている。
「え、どうして……?!」
まさか! さっきの、お姫様だっこのせい……?
いやでも、あれは私を助けてくれたからであって……。わざとじゃ、ないし。
そうだよね……?



