橋本さんとはあまり話したことはないが、挨拶は交わすくらいの、そんな仲でしかない。
 私のことを気にかけてくれる人が、橋本さんだったということを、私はこの時に初めて知るのであった。

「……時枝さん」

「へ? あ、はい……?」

 きゅ、急に話しかけられた……?

「今日は、少し寒いですね」

「え?……あ、そう、ですね」

 なぜ話しかけられたのか、未だに謎だ。今まで話しことないのに、なぜ話しかけられたのだろうか?

「掃除の時で構いませんので、ついでに試作室の暖房を付けておいていただけますか?」

「あ、はい。 分かりました」

 なんだ、ただのお願いごとだったのか……。びっくりした。

「よろしくお願いします」

「はい」

 橋本さんって、クールだからか、何を考えてるのか分からない人だな。 突然話しかけられたから、びっくりしたし……。

「……それから」

「え?」

「身体に気をつけてくださいね、急に寒くなりましたから」

 え……何? もしかして、私のこと心配してくれてるの?
 ……なぜ、だろうか?

「ありがとう、ございます」

 エレベーターはあっという間に、五階へと到着する。