【完結】エレベーターに閉じ込められたら、恋に落ちました。



 少しだけ、橋本さんに視線を向ける。

「さっき転びそうになったと思ったら、今度はこれですか」

「……はい」

 確かに今日は、ツイてない。 こんなことになるなんて……。

「……お腹、空いた」

「お腹、空きましたね」

 今何時なんだろう……。スマホの充電が切れてしまったせいで、時間も確認できない。

「まだ……来ないですかね」

「どうでしょう。 来てほしいですね、早く」

 私は座り込んだまま「はい……」としか返事が出来ない。

「……まだ、怖いですか?」

 問いかけられ、私は小さく頷いた。

「では……こうしましょうか」

「え……?」

 橋本さんは、私の手をそっと握りしめてくれる。

「これなら、少しだけマシですか?」

「……あ、はい」

 橋本さんから握られた手は、ほんのりとまだ温かい。優しい温もりだ。

「……寒い」
 
 エレベーターが止まってから、もうどのくらいだろうか……。今何時かな……。
 お腹空いたし、早く帰りたい。 お風呂に入りたい……。

「寒いですか、時枝さん」

「……ちょっとだけ」

 今日は肌寒いから、ここも寒くなる。

「なら、これを着ていてください」

「え……?」