片膝をつき、ありったけの笑顔を
見せながらのプロポーズ。


真紀子なら、涙を浮かべてOKして
くれるだろう。


「嫌よ。」


あまりに簡潔な答えに、茂男は吉
本新喜劇並みのズッコケをかます。


「え?な・な・な・何で!?」


「小松○夫似の子供なんて嫌よ。
それにまだ若すぎる。
収入もろくにないくせに!
ちゃんちゃら可笑しい。
へそが茶沸かすわ!」


「そ…そこまで言わなくても…
それに彼だって小松○夫に似たく
て似た訳じゃ…」


真紀子も俺の理解者ではなかった
のか…?


「しけた顔しちゃって。
どうせ家族と喧嘩でもしたんでし
ょ?
駄目よ、逃げたって。
きちんと解り合おうとしなきゃ。
あなたが素直にならないと、何に
も始まらないでしょ?」


その言葉は、茂男の胸にグサリと突
き刺さった。
確かにそうだ。
俺は、逃げるばっかりで肝心の話
には触れてこなかった。
それじゃあ駄目だったんだ。


「そう…そうだよな!
俺、もう一度チャレンジしてみるよ!
次は逃げずに思いを全部ぶつけて
くる!
ありがとな。」


真紀子に感謝の眼差しを向け、茂
男は再び松嶋家へと走った。


その後ろ姿を見送りながら、そっ
とポケットに手を入れる真紀子。


ゴムの跡がついたお札、計6万円
を取り出し安堵の溜め息をついた
後、もう一度あひるの着ぐるみを
被り直し、茂男とは反対の方向へ
と鼻歌まじりに歩き出した。