料理コーナーに行くと綺麗な盛り付けをされた料理が並んでた。カクテルグラスに盛り付けされた野菜のムースとか、テリーヌとか、キャビアとか、フォグラとか、ローストビーフとか、牛フィレ肉のステーキとか、普段食べないような物ばっかりある。

スイーツもティラミスとか、イチゴのムースとか、プリンとか、ちっちゃいシュークリームとか、タルトとか、あっ、チョコレートケーキもある。

全部美味しそう。

「全部食べてもいいのかな」

隣に立つ黒須が笑う気配がした。

「食いしん坊だな。春音は」

黒須が係の人に大きなトレーをもらってくれた。

「ここに乗る分は食べていいよ」

十品ぐらいは乗りそう。トレーを受け取ると端のテーブルからお料理を取った。さすがに全種類は取れなかったけど、普段絶対に食べられないような物ばかりを厳選したので満足。後はどこで食べるかだ。立食パーティーだけど、料理コーナーの近くにテーブルとイスの席もある。きっと私のようにちゃんと食事したい人が座るんだ。

トレーを持って歩き出そうとしたら、黒須に止められた。

「春音はドジだからきっと落とすよ」

ドジって酷い。確かに何もない所で転ぶけどさ。

「僕が持とう」

サッと黒須が私からトレーを取った。

「お姫様、あそこのテーブル席でいいかな?」

私が見てた方角にある白いパラソルの白いテーブルクロスがかかった席を黒須が指した。なんでわかったんだろう。あそこが目立たなくていいなって思ってたのを。

頷くと黒須が歩き出した。トレーを持って歩く姿もカッコよく見える。何をしてても素敵に見えるのはズルい。これ以上黒須にときめきたくないのに、ときめくじゃない。

「お姫様、どうぞ」

黒須がパラソルの席まで来ると椅子を引いてくれた。
照れくさい。ありがとうって言うべきなんだろうけど、恥ずかしくて言えない。

黙って座ると、私の前に料理が乗ったトレーを置いてくれた。
それから黒須は向かい側じゃなくて隣に座った。微かに甘いコロンの匂いがする。黒須がよくつけてるやつだ。

黒須が私に向かって微笑んだ。端正な顔が優しくなって急に胸がいっぱいになってくる。なんで隣に座るのよ。ドキドキしてるなんて黒須に死んでも知られたくないのに。

「食べないの?」

黒須が静かな声で言った。

「食べますよ。いただきます」

パクリと、サーモンのテリーヌらしき物を口にするけど、全く味がわからない。黒須を意識して緊張してるせいだ。落ち着け、私。料理に集中しなきゃ。

「春音はオレンジジュースもらう?」

黒須が通りかかったウェイターからシャンパンをもらいながら言った。自分はシャンパンを取っておいてオレンジジュースだなんて、子ども扱いされたみたいで悔しい。

「私もシャンパンがいい」

「シャンパンはもう飲み過ぎだよ」

黒須が心配するように言った。

「5杯ぐらい飲んでなかった?」

ローストビーフを食べる手が止まる。

黒須を待っていた間にシャンパンを飲んでた事、なんで知ってるの?