頬に触れた黒須の手に自分の手をそっと重ねた。
黒須が微笑む。

「春音の手は冷たいね」

黒須が私の手を頬から外して、握ってくれた。
結ばれた手はテーブルの上に自然な動作で置かれた。
強くも弱くもない力で私たちは手を握ってる。
大きな手に包まれてとても安心する。
叶う事のない夢を見そうになる。

「緊張してる?」

伺うように黒須が見る。優しい視線だった。

「少し」

「僕が怖い?」

否定するように強く首を振る。

「怖くない。ただ」

「ただ?」

黒須の瞳に引き込まれる。
黒い瞳は全てを知ってるみたいに見える。
私の悩みも……。

ずっと心に抗って来た。
自分の気持ちに蓋をして、その気持ちを見ないようにして来た。

だってその気持ちは辛いものだから。
決して許されるものじゃないから。

本当は黒須と出会った頃から私は……。

「眉間にしわが寄ってるよ」

空いてる方の人差し指でつんって黒須が触れた。
触れた個所が熱い。
優しい笑顔が眩しい。
叶わぬ夢に涙が浮かびそうになる。

軽く息をついて、黒須を見た。
今なら本当の気持ちを言える気がする。

「初恋を思い出したの」

「初恋?」

「中学生の時、好きになったらいけない人を好きになったの」

意外そうに黒須が凛々しい右眉を上げる。
本当に驚いた時にする表情だった。