階段を駆け下り、玄関に向かった。

「春音!」

おばあちゃんが追いかけてくる。

「春音、待ちなさい」

玄関でスニーカーを履く。

「春音、今、出て行ったら勘当だよ。もう私はあんたのおばあちゃんじゃないからね」

おばあちゃんの言葉が背中につき刺さる。きっと本気だ。

「おばあちゃん……」

思わず振り返ると、必死な顔をしたおばあちゃんがいた。

「春音、目を覚ましなさい」

おばあちゃんが泣きそうな顔をしている。
私の事を一生懸命に心配してくれてるんだ。おばあちゃんはいつもそうだった。

だけど――

「ごめんね。それから今までありがとう。お世話になりました」

4歳から今まで育ててくれた感謝を込めて深く頭を下げた。

「何言ってんだい。春音」

おばあちゃんが引き留めるように肩を掴んだ。

「ごめんね。黒須が大好きなの。彼に何かあったら生きていけないの」

本当にそう思う。黒須の安否がわかないと聞いてから、黒須の存在が私にとってどんなに大きかったかわかった。

「春音、あの男に騙されているんだよ」

大好きなおばあちゃんにわかってもらえない事が苦しい。

「もう行かないと」

肩に乗ったシワシワのおばあちゃんの手を振り払い、外に飛び出した。

「春音……」

最後におばあちゃんの弱々しい声が聞え、身が裂かれそうになった。
育ててもらった恩を仇で返してしまった。
おばあちゃんを悲しませてしまった。

家の前で待っていたタクシーに乗り込むと、堪えていた涙が溢れる。
黒須を選んだ事に後悔はない。私の全てなんだから。だけど胸が痛い。