「春音ちゃん、久しぶり」

バーに行くと、宮本さんが笑顔で出迎えてくれた。
今夜もステージではジャズバンドが生演奏をしている。

陽気な曲にウキウキする。

「お祝いに奢るよ」

カウンターに座ると、宮本さんが言った。

お祝い?

「何のお祝いですか?」

宮本さんがくりんとした目をパチパチとさせた。

「そりゃ、オーナーと春音ちゃんが両想いになったお祝いでしょ」

きゃー、恥ずかしい。
宮本さん、知っているの?

顔を隠すように両手で覆い、指の間から宮本さんを見ると、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「そんなに恥ずかしがらないでよ」
「まさか宮本さんが知ってるなんて思わなかったから」
「相沢さんも知っているよ。春音ちゃんとオーナーが会うように仕組んだからね」

言われてみればそうだ。相沢さんの電話でバーに行ったら、黒須に会ったんだった。

「いやー、見てて歯がゆかったけど、最後はオーナー男らしかったね」

見てたって何を?
もしかして監視カメラの映像?

うわっ、だからあの時、バーカウンターだけ照明がついていたんだ。監視カメラのある所で黒須と話しをさせようとして。

言葉にならない恥ずかしさで全身がいっぱいになる。

「立花さん、いらしてたんですか」

恥ずかしさに足をバタバタさせていると、相沢さんが現れた。

「あ、相沢さん……あの、こんばんは」

恥ずかしくて目を合わせられない。

「良かった。お伝えしたい事があって電話しようと思っていた所なんです」

いつもの無表情が深刻そうに見えた。

「どうしたんですか?」
「黒須に伝言を頼まれまして」
「伝言?」
「急な事なんですが、黒須は17時の便で日本を発ちました」

えっ……。