「ごめん、ちょっと大人気なかった。春音の立場だってあるよな。お父さんとは偶にしか会えないし、お父さんの顔を潰すような事もしたくなかったんだろう?」

涙がじんわりと浮かぶ。

こんな時でも私の立場を考えてくれるんだ。嘘をついた私を肯定的に見てくれるんだ。黒須はなんて……優しいんだろう。
喉の奥から熱い物が込みあがってくる。

「黒須、本当にごめんなさい。お父さんにハッキリ言えない私が悪かったの。自分でも嫌になる。お父さんを前にすると優柔不断で。そのせいで今日は黒須に悲しい思いをさせて。黒須、これだけはわかって。私が大切に思っているのは黒須だけだよ。黒須以外の人と結婚なんて絶対にありえないから」

心にある事を口にした。
黒い瞳が意外そうに見開かれ、それから優しく微笑んだ。

「今のはプロポーズ?」
「えっ」
「僕以外の人とは結婚しないって聞こえたけど」

茶化すように黒須が笑った。
言われてみれば確かに黒須としか結婚したくないって言っているみたい。でも、それは本心だ。

「そうだよ。結婚するなら黒須しかいないよ」

さらに黒須が驚いたように眉を上げた。

「随分と可愛い事を言ってくれるんだな。やっぱり帰したくないな」

黒須が頬にチュッと音を立ててキスした。
不意打ちのキスに驚いて黒須を見ると、色っぽさを漂わせた表情で、こちらを見ている。

「春音に触れないように我慢していたが、もう紳士ではいられないかもな」

それは一体どういう意味……?