「ここしかゆっくり話せるようなお店がないの。我慢してよ」

おばあちゃんの言葉がいちいち腹が立つ。

「別に嫌だとは言ってないよ。今日はあんみつでも食べようかね」

急に気楽な事を言い出した。
何があんみつよ。全く。

お昼の時間に行ったからお店は昨日よりも混んでいた。
昨日は四人掛けの席にゆったり座れたけど、今日は二人用の小さなテーブルに案内された。

おばあちゃんとの距離が近くてなんか嫌だ。
向かい側に座ったおばあちゃんはもう常連客みたいな貫禄が出ていた。
慣れた感じでメニューを見て、日替わりランチとあんみつを頼んだ。

「春音は食べないのかい?」って勧められたけど、食欲なんかなかったから、ドリンクバーだけ頼んだ。お腹がすいたら店のロッカーに入れてあるあんぱんをこっそり食べればいい。今日は15時までのシフトだし。

黒須の話を聞いて、私もおばあちゃんに言いたい事は沢山ある。
まずは黒須に愛人がいたなんて誤解を解きたい。それから、FBIの人の話も知りたい。私の知らない所でそんな事があったなんてショックだった。私が子どもだったから教えてくれなかったと思うけど、秘密にされていた事はなんか寂しい。

「意外と美味しいじゃないか」

日替わりの冷やしサラダうどんを食べておばあちゃんが言った。

「サラダうどんか。今度家でもやってみようかしら」

呑気な独り言がちょっとおかしい。昔からおばあちゃんってこんな感じ。外でご飯を食べて気に入った物に出会うと家でも再現しようとする。

そういえばレストランで食べたマッシュルームのポタージュスープがあまりにも美味し過ぎて、おばあちゃんに作ってって強請った事あったな。

おばあちゃん、一週間毎日、ポタージュスープ作って出してくれたな。
7日目はさすがに飽きちゃったっけ。

なんか昔に比べて、おばあちゃん、小さくなったな。
子どもの時は大きく見えたのに。少し痩せたのかな?

「やっぱり春音もお腹空いたのかい?」

うどんを食べているおばあちゃんと目が合った。

「ううん。私はこれで充分」

手元のアイスティーを口にした。

「食べればいいのに。おごってやるよ」

「いいよ。そんなにゆっくり出来ないし」

「そうかい」

おばあちゃんがなんか寂しそうに見えた。