何とか話を切り上げて、春音が待っている庭の方に向かった。サンルームから出ようとした時、ガラス越しにサーモンピンク色のドレスを着た春音が見えた。

思った以上に綺麗だ。ピンクの薔薇のように可愛らしくて美しい。ちょっと緊張してるかな。キョロキョロと周りを見てて落ち着かなそうだ。僕を捜しているんだろう。

シャンパンを飲んでるんだな。一杯、二杯、三杯、四杯と、春音がジュースを飲むみたいにお代わりしていく。

そろそろ止めないと危ないな。前に酔ってBlue&Devilで暴れた事があった。あの時はピアノの上で踊り出して、止めるのが大変だった。三田村会長のパーティーでそれはマズイ。

慌ててサンルームから出て、春音の方に向かうと、女性に声をかけられた。三田村会長のお嬢さんだ。「黒須さんに聞きたい事があるんです」なんて言われたらスルーできない。内容は婚約者の事だった。総合病院を経営してるという話を聞きながら、どこで切り上げようか考える。こっちを見る春音がなんか不機嫌そうだ。マズイ。早く行ってやらなければ。

でも、全然、終わらない。今、病院の経営について聞かれても困るんだがな。詳しい資料はないし、その病院の事を知らないし。

お嬢さんだけだと思ったら、なんかさらに人が集まって来た。どうしていつも人だかりが出来てしまうんだ。ただ聞いているだけなのに。

病院の話が終わったと思ったら、次は新婚旅行の話になった。どこの国がいいか聞かれても困る。お嬢様が好きな所に行けばいい。それしか答えられない。

まだ終わらないのか。次はなんだ。新居の話か?どこがいいかなんて知るか。金融のプロではあるが、不動産屋じゃないんだ。と言ってやりたいが三田村会長のお嬢様に言えない。

笑顔が段々ひきつってくる。
春音が待ってるんだ。解放してくれ。

そう思った時、いきなり腕を掴まれた。掴んだのは春音だった。
恐い顔でこっちを睨んでる。それからお嬢様や周りにいる女性たちにも春音は睨んだ。

「黒須は私の連れなんで、失礼します」

私の連れって言葉に頬が緩む。
可愛い事言ってくれるんだな。普段は嫌ってるのに。

「失礼します」

お嬢様に会釈をして、春音と一緒に人だかりから離れた。