自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ

 なんか当たる、邪魔だな。
「痛ってぇな! また蹴りを入れやがって、足癖悪ぃな」
「どうして隣に居るんですか?!」

「引っ越しが終わったことを伝えに来たら、気持ち良さそうに寝ているから」
「だからベッドに潜り込んだんですか?」
「さもありなん」
 出ないなら私が出ようかな。

「私の部屋は」
「どの部屋もお前の好きなように行き来して良い。ただひとつ、二人の寝室はここだ」

「二人でキングサイズ?」
「俺がキング()だから」
 笑うところなのか真顔だから本気で言った?

「俺らは付き合っているから二人で一緒に寝るのは当然だ」
「私、寝相が悪いですよ。ごそごそ寝返り打つのも申し訳なくて寝不足になります」

「そんな繊細な神経をしていたら大規模センターの院長になんかなれない。しっかりと寝るから気にするな」
 気にするなじゃなくてさ。

 体良(ていよ)く断ったの察してよ。

「そうだ、率直に言います。まだ私って隼人院長にとって貧乏くじなんですか?」
「呼ばれ方を変えてほしいのか」

「貧乏くじなんて嫌です」
「なんて呼ばれたいんだ?」
「隼人院長の呼びたいように」
「貧乏くじ」って、私の声に被るように即答された。

「してほしいのなら、人の意見を優先するのではなく、しっかりと自分の意見を言え。じゃないと相手のペースに持っていかれる」
 
「名字の阿加で良いです、良いですか?」
「相手に聞くな、自分を優先しろ。呼ばなきゃダメと言え」

「プライベートでは阿加って呼んでください」
「嫌だ」
 呼べよ。なんて呼ばれたいか聞いたのはそっちでしょう?

「麻美菜がしっくりくる」
「どうぞ、お呼びください。それなら隼人院長は」
「好きにしろ」
「呼ばれたいのないんですか?」
「ねぇよ」

「特別感がないですね」
「二人の関係性に特別感を求めているのか?」
「単純に思っただけで深い意味はないです」

「素直に言えばいいものを。がっかりしたんだろう」
「そ、そういうわけでは」
「つべこべ言ってんな、隼人って呼べ」
 自分こそ呼んでほしいって言えばいいのに。

「どこへ行っても誰からも院長か先生呼びだ。名字や名前を呼び捨てなんてされなくなる、偉いから」
 偉いからだって。自分で言う?

「偉い奴は叱られることが皆無だ。だから塔馬は気の強い女が好みなんだよ」
 ドMなの? 叱られたいの?

「そういえば初対面のとき、お前」
 隼人院長の言葉を遮り「麻美菜です」

「俺に向かってガミガミ注意したよな。だから、あのときは新鮮だった」

 上に立つ者は誰からも注意をされなくなることが恐ろしいことなんだとも話してくれた。

 トップの人だから自信過剰でいなくちゃならないのかな。素じゃなくて意識的に我を強くしているのかな。

 そう思ったら隼人院長のことがいじらしく思えてくる。
 隼人院長の素って、本当の姿は?

「さぁ早く支度して来い、置いてくぞ」
「はぁい!」 
 慌てて支度をして隼人院長の車の助手席に飛び乗った。