自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ

 女子会メンバーの先輩は既婚者で、束縛する旦那さんからの携帯が鳴りっぱなしですぐに帰らないといけなくて、先に帰ったそう。
 
 残りの数人の先輩とユリちゃんは飼い猫に餌をやらなきゃいけないけれど、私を置き去りにして帰るわけにもいかず、テーブルに置いてある私の病院専用の携帯を手に取ったと。

 ユリちゃんが、ひとつだけ登録してあった“当たりくじ”という登録名に電話をかけてみたら、隼人院長の携帯につながったそう。

 結局、隼人院長が見捨てるわけにもいかないって車で迎えに来てくれたんだって。

 隼人院長が現れたからユリちゃんは相当驚いていたって。

 わけ分からない登録名だし隼人院長の声をユリちゃんは知らないから、顔を見るまで誰が迎えに来るか分からなかったって言っていたって。
 
「まさか、当たりくじが俺だとは思わなかったのだろう」
 それで私を車に乗せて自宅に連れ帰ってくれたんだって。

「以上だ、分かったな貧乏くじ」
「説明ありがとうございます」

「携帯で俺の登録名が当たりくじ。やはり俺のことを好きなのか、いつからだ?」

「違います、勝手に話を進めないでください」
「説明しろ」

「率直に言って隼人院長のことが苦手です。いつか苦手を克服出来て当たりくじと思えるようにと願いを込めて登録名にしました」
 
「ふぅん」
 興味なさげのどうでもいいような返事。

「今この瞬間から苦手意識を克服すれば良いじゃねぇか」
「どんな方法で?」
「付き合うんだ」
「嫌です」

「いつから自己主張するようになったんだ」
「恋愛を絡めた人間関係は、そう簡単に構築出来ません」

「動物の命を守るために」 
 汚いなぁ、動物を出されると弱い私の弱点をついてきた。ズルい!

「嫌です」
「分かった」 
「諦めが早くて良かったです」
「この醜態を晒す」
「そういう意味の分かったなんですか、脅迫ですよ」

「他者には付き合うのは秘密だ、スリルがある」 
「嫌です」
「スリルは嫌か」
「そっちじゃないです」
 付き合うのがだってば。

「隼人院長のスリルのために付き合うのは嫌です。隼人院長って思いやりに欠けていません?」

「それなら公にする」
「そうじゃなくて、私は付き合うことに同意していません」

「分かった、この醜態を晒す」
「分かりましたよ、付き合えばいいんですね、付き合えば。でも条件があります」 

「なんだ?」
「キスは嫌、しません。初めては愛する人と夢のような素敵な時を過ごすので既成事実も嫌、しません」

 付き合ったことがないから付き合う定義が分からない。

「分かった」
「また醜態晒すっておっしゃる意味の分かったですか?」

「や、違う。あれも嫌これも嫌、お前それ本当にしないって守れるんだろうな、そっちこそ守れよ」

 隼人院長の涙ぼくろの動きで感情が読める。今、涙ぼくろが上に動いたから自信ありなんだ。

「俺をベッドに引きずり込んで抱きついて離さなかった前例がある」 
 これずっとしつこく言われるんだろうな。恰好のネタだもん。

「看護師の給与は雀の涙だ、生活はカツカツだろう。引っ越して来い、ここなら金がかからない。物事は合理的に」

「付き合うって今決めて、いきなり同居から交際スタートですか? 無理です」
「いつか住むのなら、いつからでも良い。早い遅いは関係ない」

 決断力と判断力と行動力の早さに引きずり込まれそうなほど強引に進める。

「あっ、交際は秘密なんですよね。引っ越したらユリちゃんに引っ越し先を教えることになりますよ。確実にバレます、無理ですね」

 さぁ、どうする?