自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ

 ドラマや映画の話みたいだけれど実際の医療現場では、この手の話がごろごろ転がっている。

「私の不甲斐なさや仕事の出来なさ加減に徳縄先輩のイライラが積もり積もっていったんです。徳縄先輩を意地悪にさせたのは私です」

 徳縄先輩は焼きもちを認めていたけれど、根本的な理由はこっちだと確信している。

「させる側に非があるなんて歪んだ罪悪感を持つ必要はない。やる側が全面的に悪いんだぞ、お嬢ちゃん分かったかい?」

「敬太先生ありがとうございます」

「嫌味やいじめは跳ね返すより、気にしないのがいちばん。すべてまともに受け止めてたら壊れるよ」
 敬太先生も俊介先生も優しい。気持ちを前向きにしてくれる。

「波島は俺の嫌味やいじめを人見が言ったような方法で回避してたのか、ん?」

「ちょ、ちょっと、なんすか塔馬先生。僕は微塵も思ってなかったっすよ? もしかして僕に嫌味を言っていじめてました?」

「冗談だよ、波島は見込みがあるから怒鳴りつけるんだ。叱るのは愛だ、ポンコツに労力使うほど俺はお人好しじゃない、このクっソ忙しいのに」

「あざぁっす!」
 私、隼人院長チームに来て良かったかも? 

 それぞれが自分の持ち場に戻って行ったのを見送り、緩和ケア室に気になる子が居るので行ってみることにした。

 ここ緩和ケア室では、心臓マッサージは実施しないし人工呼吸器につなぐこともしない。
 状態観察や疼痛コントロールなどを中心に支援をしている。

 ガンを患うポメのモカ。再発と転移を繰り返して容態は危殆(きたい)(ひん)している。

 モカは豆柴カットの愛らしい男の子、先月十五歳になったばかり。

 まだ、あともう少し生きられそうなので看護で後悔もしたくないし、モカにも無理なく一日でも楽に過ごしてもらおうと日々看ている。

「モカ、調子は......モカ!」
 モカは、もがき苦しみ生き地獄の状態。
「またきみか、様子を看に来ても変わらないさ」
 背後から聞こえる声に(はらわた)が煮えくり返る。

「非枝先生、モカはこんなに苦しみ痛がってるじゃないですか! 早くオピオイド(医療用麻薬)を使ってあげてください」

 血が逆流するかと思うほどの怒りで食ってかかった。

「俺が死期を早めたと思われたらどう責任とるんだ、沽券に関わる。オピオイドは使用しない」

「なんて自己中心的なことを。苦しんでいるじゃないですか! 早く決断してください!」

 ふざけないでよ、ふざけないで、ふざけるな!
 怒りが込み上げてきて掴みかかりそうになる。

「お願いしますから早くモカに」
「尊厳死なんか認めてたまるか」 

 自分のことしか考えていないで体裁ばかり気にする危険な獣医が、普通に獣医をしていることが正気の沙汰じゃない。 
 
「苦痛なく最期が迎えられることが患者にとっていちばん幸せなんですよ。こんなむごいことやめてください!」