自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ

 俊介先生に頼まれた資料を渡しに医局に行くと、ソファーで敬太先生と俊介先生と朝輝先生がミーティングの話で盛り上がっていたみたい。

 俊介先生に資料を渡して、隣にちょこんと座って黙って聞かせてもらう。

「循環器内科は自分たちが一番病院に貢献している、技術が高いと思っている奴が多いよな」

 敬太先生の経歴は華麗だから、非枝先生のことなんか鼻っから相手にしなさそう。

「循環器内科の先生は冷たく淡々としていますよね。それに短気で頑固っすねぇ」 

 朝輝先生は、だいぶしぼられているみたいだからね。私よりはマシでしょうけれど。

「循環器内科はプライドが高くて短気だ、それに厳しい。そうだろ波島、俺が言うほどだから相当だ」
 ニヤリと笑い、チラリと朝輝先生の顔を見ている。

「塔馬先生は厳しさの中に優しさがありますよぉ」
 取り繕うような朝輝先生の額から冷たい汗が噴き出しそう。
「院長と一緒にすんなってか」
 
「急変や緊急が多い循環器は外科っぽいっすもんね」
 改めて隼人院長と非枝先生を思い浮かべてみると、朝輝先生の言う通りの気質だな。

「循環器内科は心カテや緊急対応も多いから外科に似てるよな、見逃しは生死に直結する。ブレない強い心で自分を信じなきゃ患者を殺しかねないもんな」

 一秒の遅れも許されない動物の重い命を背負っているからなのかな。

 誇り高くて孤独との戦いっていうのかな。人を寄せ付けない、他人を受け入れない面があるように感じる。

「循環器内科の奴らも精神力体力共にタフだよな、ふてぶてしくて図太い」

「外科系の塔馬先生は、とにかくタフでワイルドでおおらかで野生のライオンそのものっすよ。女をいっぱい囲っているのも行動力のある外科系獣医の証っす」

「泌尿器科のお前はなんだよ」
「男女問わず友だちになりたいナンバーワンっす。博愛主義ですし」

「ただの女好きだろ、博愛主義が聞いて泣くわ。人見みたいな奴が博愛主義っていうんだ、ずうずうしい」

「それなら平和主義ということで。まぁ、人懐っこさでゴールデンってとこっすかね」
「ハスキーだよ、お前は」
「塔馬先生異議あり、それ僕がバカっぽいってことっすか」 

 愛嬌がある二頭は人懐っこさに変わりはない。にしてもハスキーに失礼だわ。

 ハスキーはバカじゃなくて、ボスの命令に対して一直線に突き進む柔順で素直で仲間想いで辛抱強くて実直な性格だわ。

「バカだけどバカなりに絶対的にリーダーに従う。それにチームワークがなんぼのソリ引きで仲間とうまくコミュニケーションをとる能力が高い」

 いきなり知らないチームに入っていって手術見学をさせてもらって来たり、確かに朝輝先生のコミュニケーションスキルは高い。

「塔馬先生、後半は良いとして前半褒めてます?」
「バカだから一度走り出すと止まれの合図もなんのその。止まらないで一直線だもんな」

「ですから、僕のことなんだと思ってます?」

「バカほどバカと言われると聞き流せなくてムキになって怒るよな、余裕がないんだよ」 

 とうとう朝輝先生の可愛らしい顔の頬が膨らむ。

「冗談だよ。それより聞けよ、今まで循環器内科の奴らを見てきた私感」
 笑顔から真顔に変わった敬太先生に三人の視線が釘付けになる。

「女が反論や批判して口答えしたり、気が強いがさつなタイプだと、ほぼ間違いなく性格や価値観の不一致で相性が悪い」

 敬太先生が私見に自信ありげに頷く。

「生意気な女はダメだな、うちの葉夏は気が強いが賢いからうまく立ち回ってる、感心するよ」
 なんかノロケちゃってる。