自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ

「お嬢ちゃん、獣医は患者を救うために日々尽力してるんだよ。患者と向き合う日ごろの俺の姿を見てるかい?」  

「阿加ちゃん、あくまでも結果論よ。私たち獣医もただの人よ、完璧な人間なんていない。ナナに万が一のことが起きた場合の対処法まで意見を統一しておく必要があるのよ」

「あああ、そういうことでしたか」
 ホッと胸を撫で下ろした。ビックリとショックで胃痛がして胸がえぐれそうだった。

「私たち獣医と阿加ちゃんたちは、患者はもちろん飼い主の心のケアも大切な仕事よ。ここの繊細な対処法を蔑ろにすることは出来ないのよ」

「磯谷さんはナナのための金もあり愛情もある。だから、一歩間違えれば死期を早めてしまったとき訴訟リスクもある」

 この言葉からは敬太先生か慎重派か大胆派か分からなくなった。

 意見がまとまるまで根気強く続いたナナの治療計画の話し合いは、金銭面も含めて無事に終了した。

「所詮、人ということですよね。患者の生命力を少し助けているにすぎないなと痛感します」
 俊介先生がしみじみとつぶやいた。

「人見、少し助けているなんて謙遜するな。俺、塔馬、お前、矢神、波島。それに大樋さんに阿加。全員が全力を尽くして大きな力と知恵になってんだ」

「そうですとも、院長のおっしゃる通りです。私たち看護師も先生たちが気持ち良く仕事が出来るよう、これまで以上に努めますから」

「僕も今出来る限りの知恵を絞って頑張ります、ナナの命を絶やしちゃいけないっす」

 隼人院長率いるチームはエリート精鋭集団であり、一致団結したときのパワーが爆発したときの威力は相当なもの。

「クリーレンは地域獣医療の最後の砦だ。俺らが逃げ出したら誰がやる? 俺らしかいないんだ」 

「院長、僕ら獣医は救急救命に備えた体制を整えておくことが欠かせません。僕ら全員逃げないっす」

「そう、その意気よ。自分が獣医になり、学んだことによって出来る治療が増え、その結果ひとつでも多くの動物の命を救うことが出来るのは、私にとって大きなやりがいよ」

 患者さんの命を守る急性期は、ニ十四時間気の抜けない緊張感の中が常につきまとう。

 私も最近は緊張感よりも唯一無二のやりがいと達成感を大きく感じられるように変わってきた。

 しばらくして受付から隼人院長のPHSに連絡が入った。

 磯谷さんの悲痛な叫びが私たちにも漏れてきた。
 すぐに飛んで来るという。