自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ

 血検から戻って来た俊介先生と大樋さんは、葉夏先生と朝輝先生のやり取りは毎度のことだから、気にも留めない。

 お二方は隼人院長の指示でナナを入院させる準備に取りかかる。

「隼人院長、受付から飼い主に連絡がいくんですか?」
「ああ、その後、俺に電話をつないでもらう」

 その後、先生たちは医局に戻り、私は処置室の後片付けをして医局に戻った。

 全員揃ったところで治療計画の話し合いが始まり、私は大樋さんの隣で治療計画書作成の作り方を勉強する。

 入退院、検査、投薬、処置などの予定や計画。要するにこれからの治療全般の意見を先生たちが提案している。

「糖尿病は恐ろしいです。過去には治療を続けましたが、途中肺炎を合併してしまい亡くなった症例が多々あります」 

 葉夏先生の言葉に一同頷きながら、案を出し合っている。

「ナナは今、急性期の状態だ。症状が急激に現れるため体の負担が大きい。経過が早く、刻一刻と変化していく状態を全員がしっかりと把握することが必要だ」
 
 隼人院長の言葉で改めて急性期の怖さに緊張が走る。
 たった数時間でもがらりと容体が変わっていることがよくある。

 今は一応は落ち着いている、今は。

「朝はこうだった、一時間前はこうだったといった的確な状況報告を忘れるな」

「院長の言う通りよ。私たち獣医と看護師は連携をとりながら、突然の容態急変のリスクにも備えましょう」

「それに秒単位の素早い判断と迅速な対応が求められる」

「道永の言う秒単位の判断をすることで、分単位で患者が良くなってくるのは快感だよな」

「お前はどこに快感を覚えるんだ、やりがいな」

 ナナは老犬、糖尿病、肥満、その他も気になる検査結果がいくつもある。
 まさか熱中症が引き金になるとは。 

 様々な意見が出される状況で、慎重派と大胆派とで意見が分かれたりしている。

「磯谷さんは金払いが良い。ナナのためならいくらでも大金を積む。それは良いんだが方針決定に難渋するよな」  

 敬太先生って大学から渡英してレジデンスをしていて海外生活が長かったからか、割と思考が経営者向きでドライ。

「それだけ治療全般の選択肢が自由に広がるものね」
 葉夏先生が眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。

「金銭面については、いっさいうるさいことは言ってこなくて面倒くさい飼い主ではない。そのかわり飼い主を納得させる落ち(死に)方にしないとな」

「えっ、敬太先生、ナナになにするんですか、諦めているんですか」
 敬太先生が酷いから怒りを跳び越して泣きそうになる。