「おかえり、沙綾」
「ただいま帰りました。あの、ありがとうございました。ミソノのチケットだけじゃなく、こんな素敵なドレスまで」

家を出たときのシンプルな装いも悪くなかったが、今沙綾が身につけているのは『ソルシエール』というブランドのドレス。

上品な透け感のレースが華やかさを演出するドレスは、秋らしく落ち着いたワインレッドカラー。

ハイネックに七分袖、スカートはミモレ丈で露出は控えめながら、高めの位置にウエストの切り替えが入っているためスタイルがよく見える。

ドレスに合わせてヘアメイクもパーティー仕様で、いつもよりも目元や唇がラメでキラキラと光りを放っている。

ドイツで見た和装もよく似合っていたが、今日のドレス姿もとても綺麗だと、拓海は満足げに微笑んだ。

「いや。誕生日なんだ、このくらいさせてくれ」
「ありがとうございます。湊人とふたりは大変でしたよね」
「まぁ、沙綾をはじめとする世の中の母親に尊敬の念を抱いたよ」
「ふふ、お疲れ様です」
「どうだった? 久しぶりの聖園歌劇は」

可笑しそうに微笑んだ沙綾に舞台の感想を聞くと、一気にトップギアに入った彼女は両手のこぶしを上下させながら興奮気味に話し出す。

「もう最高でした! 今回の舞台は少女漫画が原作だったので胸キュンポイントがいつも以上に盛り沢山だったんですよ! 主題歌も脚本もめちゃくちゃよかったし、演出も照明を凄く効果的に使ってて斬新だったんです。あの手法、絶対他の舞台でも今後使われそうだなって。なにより主人公のアランがかっこよすぎなのとヒロインのマリアンヌが可愛すぎ、て……」