そうして差し出されたナイフをアンナと一緒に恐る恐る見つめる。
 その柄の部分は良く見ると細かく美しい装飾がされていて、その中心にラウルの言う『紋章』が刻まれていた。

「!?」
「これって!」
「あぁ、エストガリア王家の紋章だ」

 間違いない。
 ここ、ベルヴェント王国の川を挟んでお隣の国、エストガリア王国。その王家の紋章。
 それが刻まれたナイフを彼が持っていた、ということは。

「彼、エストガリア王家の関係者ってこと!?」

 アンナが大きな声を上げた後で慌てた様子で口を塞いだ。
 あと一拍遅かったら私が同じことをしていただろう。

「先生がアイツになんか耳打ちしてただろう? 先生もこれに気付いたんじゃないか?」

 私は頷く。きっとそうに違いない。
 と、アンナが口に手を当てたまま神妙な顔つきで言った。

「ちょっと待って。そういえば聞いたことがあるわ。エストガリア王国の2番目の王子様、なぜかあまり表には出られないけど、とても美しい方だって。確か名前は……そうよ、リュシアン様だわ!」
「まんまじゃねえか」