「……なぜ。なぜそんな……姫様は、陛下の実の娘ではないですか!」

 騎士であるクラウスがお父様に対してこんなふうに声を荒げるのを初めて聞いた。

「聖女を、娘と思うたことなどない」
「!?」

 ……驚きはなかった。
 遠ざけられているのはわかっていた。

 私だけ、いつもひとりだった。
 他の兄弟姉妹のいる王宮とは離れた『聖殿』で、私だけいつもひとりで過ごしていた。
 若くして死ぬ運命にある私に情がうつらないようにするためだったのかもしれない。――そう、思うようにしていた。

 だから、私の話し相手はいつもクラウスだけだった。

「せめて好いた男の手で、と聖剣をお前に託したというのに。そうなってしまってはもう仕舞だ。――化け物になり果てる前に、殺せ」

「姫様……!!」

 すぐ傍で嫌な音が続けざまに聞こえた。
 何が起こったのか、わからない。
 見えない。

 怖い。

 怖い……!

「クラウス……どこ? クラウス?」
「……姫様。……私は、ここに……」

 いつもの優しい声が聞こえた。
 クラウスが傍にいてくれるのがわかった。
 だから私は安心できた。

「クラウス。いつも私の傍にいてくれて、ありがとう」

 きっと、笑うことが出来ただろう。

「姫様……申し訳ありません。せめて、どこまでもご一緒いたします」

 胸に大きな衝撃があった。