白いベッド、シャチのぬいぐるみ、装飾の施されたデスクライト、部屋のカーテン。
目についた好きなものを書き連ねていく。
チェックのエプロン、仕事で使っているボールペン、両親、お姉ちゃん、ハレルヤ、健吾さん、風太。
「風太」と書く文字が少し揺れた。
歪んだ字を書き直し、気を取り直して続けた。
そして書き上げたものに対して、どんな部分が好きなのか理由を横に書き足す。
小一時間机に向き合って気づいたのは、自分が色で物を選ぶことが多いことだった。
(私、色が好きなんだ)
我ながら単純な解釈だと思った。
だけど、自分をつかめたような気がして嬉しくなった。
(色彩の勉強をしてみよう)
翌日、会社帰りに書店へ寄り、資格コーナーで参考書を買い求めた。

「よしっ」
週末の土曜日には電車に揺られて、ハレルヤへ出かけた。
好きなことを見つけたと報告すると、破顔した健吾さんは準備中の間だったらいいよと、お店の一角を勉強スペースとして提供してくれた。
今の仕事は事務職で採用されており、課の雑用を含め、補助的業務を一手に引き受けていた。
やりがいがない訳では無いが、毎日同じような作業の繰り返しだった。
だから、新しい知識を学ぶのがただただ新鮮で、楽しかった。
店の片隅にスペースを確保する私を見ながら健吾さんは言う。
「しばらく風太は大学の用事で来ないよ」
やっぱり…と思いつつ、ふと思いついた。
「じゃあ、私風太の代わりにお手伝いに来ます」
そう申し出たら、恐縮された。
だけど、ここは私の心を救ってくれた場所だ。
少しでも何でも、返せるものがあるなら返したい。
私の言葉を聞いた健吾さんは、うーんと唸る。
だけど、土曜日に都合が合わないパートさんの代わりに来ていた風太の不在を悩んでいたのも事実らしく、最終的には受け入れられた。