「そうだ。相手は我が家と敵対するカーネリアン公爵家だ。
私が国王に近いことをよく思っていないのはお前達もわかっているだろうが、カーネリアン公爵は血の気が多い。
もっと領地を拡大すべきだと思う者達を先導し、国王に迫っている。
だがまだまだ彼らは国王の側近に味方が少ない。
だから信頼の厚い者達を家に取り込みたいのだ」

「よくある話しすぎて面白みに欠けますね」

鼻で笑うようにハーディスが言いのけて私の頬が引きつる。

なるほど、国王派とカーネリアン公爵派は対立的にあるのは知っていた。
そこで私を真摯に思う相手をどちらかでも奪えば、家への嫌がらせになるし側近の人脈も増える。
なんというか、あの家らしいやり方だ。

「しかしカーネリアン公爵家のどのお嬢様を相手と言っているのですか?」

私の疑問にお父様が、

「次女のエリス嬢だ」

どんな人だったろうと思い出そうとしていたらハーディスが覚えていた。

「一度夜会でお見かけしたことがあります。
赤毛の髪でなんとも意志の強そうなお顔立ちだったかと。
カール様と同じ歳くらいではありませんでしたか?」

「そうだ。
以前そういった集まりでトラブルを起こして出ないようになった」

「お父様、そんな話初耳です」

「妻のある男と会っていたというのがバレて、その妻と修羅場になったそうだ」

「それは嘘では無いのですか?」

この世界、相手をおとしめるために嘘や誇張などの話を吹聴するのはよくあること。
そのターゲットにされたのではと思った。
だがお父様は顔を振る。

「いや、事実だ。
私もそこに居たが、エリス嬢が自ら認めて奥方が逆上し水をかけるという騒ぎになった」

「待って下さい、その場に夫も居たはずですよね?」

「夫の家の方が格式が低く、妻に何も言えない立場だったんだよ。
だからそんな妻に嫌気がさして若い女に走ったのではという噂にもなったが」

政略結婚が普通のこの世界。
男性側が女性より立場が低ければ言いなりになるしかないのだろう。
そんな事があったなら彼女も社交界に顔を出せないのは無理も無い。