誰も言いたがらない塩野さんの事。

日に日にモヤモヤが積もっていく。



「わあ…」

6月下旬。

梅雨に入っているにも関わらず。

ピカピカに磨かれたスーパーバイクを帰りに地下駐輪場で見かけた。

真っ赤なドゥカティ、イタリアの有名なバイク…。

1098Sだ。

値段は…270万くらいする。

目を輝かせて見ていると。

「乗りたいのか?」



後ろから声が掛かる。

…その声は。



塩野さん。



初めて、私服を見たけど。

なかなかセンスが良かった。

「これ、塩野さんの?」

ボクの問いに頷いて、ヘルメットをミラーの所にかけた。

…このバイクを持ってるって、どんなに金持ちなんだよ?

「たまには走らないと…。
今からプラッ、と出かけるけど一緒に行く?」

「ボクのバイクじゃ、塩野さんに追いつけないよ…」

「ゆっくり走ってやるよー。
それとも…」

塩野さんはニヤリッ、と笑った。

「後ろに乗る?」