雪の日

 冷たく重苦しい空気に包まれていた。
 麗子は准からの言葉を待つことしか出来なかった。

「ちょっと来て」

 冷たい視線を向けられ、更に胸が苦しくなった。
 何処へ向かっているのかもわからないまま、麗子は黙って准の後ろをついて歩いた。
 日が暮れ始め、辺りは薄暗くなってきた。アスファルトにはうっすらと雪が積もっている。准は振り返りもせず近くの公園に入ると、ベンチに腰を下ろした。
 麗子が隣に腰を下ろすと、准はちらりと目を向けた。

「麗?」
「ん?」
「俺は今でも麗が好きだから」

 胸が詰まって何も言えないまま、麗子はただ准を見つめた。

「すげぇ会いたくて、何度も麗に会いに行こうと思ったけど、返事聞くの怖くて結局一度も行けなかったんだよな……だっせぇだろ? 自分がこんなに肝の小せぇ男だと思わなかった」

 准は苦笑いしてから俯いた。
 雪が激しく降り始め、麗子は緩く巻いたマフラーを口元まで持ち上げた。

「麗の誕生日に偶然会えた時はちょっと運命感じたけど、あれから何もねぇまま三年も経ったから……。俺の勘違いだな」

 准は俯いたまま、自嘲気味に笑った。

「麗は気付いてなかったけど、実はあれから何度か見かけてんだ」
「え? 何で声掛けてくれなかったの?」
「何となく……でもねぇか。声掛けても何話したらいいかわかんなくてさ」
「じゃあ、何で今日は声掛けたの?」

 顔を上げた准は、まじまじと麗子を見た。

「髪型変わってたからだよ。……俺の好きなショートに」

 はにかみながらそう言うと、准はまた視線を落として、それからしばらく無言の時間が流れた。