雪の日

「麗、髪切ったんだな」

 不意に准の手が伸びてきて、切り立ての髪にそっと触れた。

「そんなことしたら、彼女が焼いちゃうよ」

 麗子は伏し目がちに言った。

「だよな」

 髪から手を離した准は、気まずそうに額を掻いている。
 一刻も早くこの場から立ち去りたいという思いが、麗子の頭の中を埋め尽くしていた。

「准君、元気そうで良かった。じゃあ、またね」

 胸の前で小さく手を振り立ち去ろうとすると、不意に強い力で引き戻された。

「まだ話終わってねぇよ!」

 腕を掴んだままの准が、鋭い眼差しを向けている。
 麗子は戸惑い、准を見つめたまま立ち竦んでいた。

「女なんかいるわけねぇだろ!」

 准が声を荒らげた。

「え?」
「お前、俺の気持ち知ってるよな?」
「……」
「ひでぇ奴」

 そう言われても仕方がない。けれど、それならば何と言えば良かったのだろう。
 自分のことをまだ好きでいてくれているのか、なんて聞けるわけがない。

「ごめん」
「謝んじゃねぇよ! 何か俺、すげぇ惨めじゃん……」

 麗子は返す言葉を探しあぐねた。