『ガキかよ! すぐ風邪引くくせに』

 いつだったか、雪が降る日のデートの帰り道、積もったら雪だるまを作ろう、と話した麗子に仁が言った言葉だ。
 仁は呆れ顔を向けながら、コートのフードを被せてくれた。
 次の日雪は積もったが、雪だるまは作れなかった。仁の言った通り、麗子が風邪をひいて熱を出したからだ。そして、仁がお見舞いに大量の雪見だいふくを持ってきた。
 ふと、そんなことを思い出して、口元が緩む。
 
「麗」

 呼ばれた気がして振り返ったが、気のせいだったようで、幻聴が聞こえたのかと身震いした。

「麗!」

 今度ははっきりと聞こえてもう一度振り返ると、何処からともなく小走りでやってくる男性が見えた。

 ――仁!?

 一瞬、心が騒いだ。だが、そんなはすがない。黒髪をなびかせてやってきたのは、准だった。
 麗子は息を呑み、その顔をじっと見つめた。

「麗、だよな?」

 准が首を傾げてぎこちない口調で尋ねる。

「え? うん、そうだよ。何か……准君、雰囲気変わったよね」
「そうか?」

 准は事もなげに言った。まるでずっとそうだったかのような口ぶりだ。
 三年前は、どこにいても目立つ金髪だったのに。さらに三年遡った六年前、麗子が初めて顔を合わせた時から既にそうで、それが彼のトレードマークのようだったのに。 

「まぁ三年も経ったら見た目も変わるんじゃねぇの?」
「何か……」

 言いかけて、言葉を飲み込んだ。仁に似てる、なんて、言えるはずがなかった。

「准君、大人っぽくなったね。年上の彼女でも出来た?」

 からかうように言ったつもりだったが、准の表情が一瞬強張ったように見えた。

「まぁな。俺、結構モテるし」

 准は表情を変えずに、ぶっきらぼうに答えた。
 年上の彼女に見合うように、落ち着いた印象の黒髪に戻したということだろう。一瞬怒っているのかと思ったが、それが彼の平常運転だったと思い出した。

『俺んとこ来てほしい』

 そんなことを言われた過去を引きずっているのは、自分だけだ。