人通りの少ない場所まで来ると、足を止めた准が肩に回していた腕をほどき、麗子の顔を覗き込んだ。

「落ち着いたか?」
「うん……ごめんね」

 麗子はいたたまれない気持ちになり、顔を上げることが出来ずに髪を弄って俯いていた。

「麗、誕生日おめでとう」
「え?」

 思いもよらない言葉に驚いて顔を上げると、准が優しい眼差しを向けていた。
 収まっていた涙が、再び麗子の目から溢れた。

 二十四歳の誕生日だった。
 仁がいれば、純白のウェディングドレスを身に纒い、永遠の愛を誓っていた。

「辛いのはお前だけじゃねぇから」

 准の手がふわりと麗子の頭を撫でた。

「寂しくなったら、他の奴じゃなくて俺んとこに来てほしい……待ってるから」

 准はそう言うと、悲しげに微笑を浮かべ背を向けた。
 あの日のように、不安定な心境で口にした言葉とは違う、冷静で真っ直ぐな准の気持ちが感じられた。