雪の日

 准の指先が頬に触れ、何度も往復している。

「拭いきれねぇわ!」

 荒ぶる口調でそう言うと、麗子を強引に抱き寄せた。

「あっ――」
「あ、わりぃ。痛かったか?」
「ううん、大丈夫」

 引き寄せられた勢いで、緩んでいたマフラーが滑り落ちたのがわかった。

「待っててくれてありがとう」

 ずっと言いたかった言葉を口にする。

「俺が絶対幸せにしてやりてぇと思ったんだ、あの日。お前が幸せじゃねぇと、俺は幸せになれねぇから」

 麗子はあの日の准の言葉を噛み締めていた。

「てかお前って、こんなに華奢だったんだな。これ以上力入れたら壊れそう」

 気になっていたぎこちない力加減が可笑しくて――

「やだぁ、大丈夫だよ」

 准の胸に顔を埋めたまま、麗子は小さく笑った。

「待ってて良かった」

 耳元で呟いた准が、深く呼吸した。温もりをもっと感じたくて背中に回した腕に、准の体の強張りが伝わってきた。

「やべっ、泣きそう」

 不意に力んだ准の指先から、腕から、体全体から、三年間の思いが伝わる。


「さみぃな、帰ろっか」

 その言葉に、嫌だ、とすぐさま返せなかった自分がもどかしい。

「出来ればずっとこのままでいてぇけど……」

 付け足された言葉に胸がキュンと鳴く。
 はにかみながらゆっくりと体を離した准が、足元に落ちた麗子のマフラーを拾い上げた。

「准君、寒かったらマフラー貸してあげるよ」
「はぁ?」

 マフラーの雪を払いながら、准が呆れた表情を向けた。

「人の心配してる場合じゃねぇだろ。すぐ風邪ひくくせに」
 
 そうして、苦しいぐらいにマフラーが巻き付けられた。
 
「じゃあ、雪見だいふく買って帰ろっか。お前好きだろ?」
「うん!」


 自分が大切にされていたということ。そして、今も大切にされているということ。

 思い出は、雪の日に――





【完】