破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜

 そのことは、国民のほとんどが、とても良く知っているけれど。考え難いことだけれど、もしかしたらこの彼は自分が、とても目立っている存在であることを知らないのかもしれない。

 ついさっきまで付き合っていたクレメントへの遠慮もあって、そして特にそうする必要性もなかったから、ランスロット・グラディスと私は今まで話した事が一度もなかった。

 互いに、遠目で姿を見るだけだった。

 淑女に対する礼儀は、完璧。きちんと挨拶と自己紹介をされて、それでも無視を貫く訳には行かない。

 私はゆっくりと頷き、紳士的に長椅子に距離を空けて座る彼を見た。

「初めまして。ディアーヌ・ハクスリーです。グラディス様」

 彼の方を向くと歪んだ視界が揺れて、頬を伝った温かなものに手に触れると指先が濡れて驚く。

 そんなつもりなんか、なかったのに。こんなところで、みっともなく泣くつもりなんてなかったのに。

「不作法を。申し訳、ありません」