失恋の衝撃に気持ちがついていかなくて長時間ぼんやりと座っていた長椅子の反対側の端に、誰かが腰掛けた気がして私はふと目線を向けた。

 どうやら、あちらもじっと動かないままで座っていたままの私の様子を窺っていたのか。何の感情も見えない無表情しか見たことのない彼なのに、珍しく驚くような顔になっていた。透き通る氷を思わせる、薄い水色の瞳は見開いている。

 慌てて視線をさっきまで見ていた足元に、ぱっと戻した。

 何の理由かわからないけれどその場所に居た彼の顔が、異常に整っていたからとかではなくて、とても見覚えがあった。

 きらめく銀色のさらりとした髪に色素が薄い水色の目を持つ彼は、この国では良く知られていて有名だから。

 大国レジュラスに、この人ありと囁かれる、氷の騎士ランスロット・グラディス。そんな名で呼ばれ、多くの武勲を立て国民からも支持を集める人気の美形の騎士だ。