誰とも踊らないと言われているとは、思ってはいなかった。色々と面倒な事が付き纏う貴族の世界で、この人と何かがあると思われれば良くないと判断した積極的な数人を断っただけだった。そしてこちらから誘っていないのは、踊りたい令嬢がいなかっただけの話だったが、思い返せば誘われなくなっていた。

 今年の社交界デビューの夜会は、近付いていた。彼女も年齢的に、出席するだろう。そして、自分は出会いの予感に浮かれていた。きっと彼女をその時に自分が踊ろうと誘えば、可愛い笑顔を見せて喜んでくれるだろうと思っていた。

「おいおい。ランスロット。珍しいな。お前が殿下に命じられた訳でもなく、夜会に行くんだって?」

 同僚の一人風の騎士ヘンドリックは気安く、話しやすい。夜会に出席するために、勤番を交代して貰ったのでなぜかという詳しい理由も彼にだけ語っていた。

 自分が誰かを踊りに誘おうと考えていた事など、特に気にするべき事でもないだろうと、思っていた。

「声を掛けたい女性が出席するんですよ」

「お前が!? 国中が驚くぞ。目当ての御令嬢の名前は?」

「ディアーヌ・ハクスリーです。ハクスリー伯爵家の令嬢」

「あ。俺、その子殿下主催のお茶会で、見たことある。可愛いよなー……確か、ライサンダー公爵令嬢の親戚で仲良いんだよな」

 だが、夜会が開催された日は、どうしても片付けねばならない書類仕事に捕まり……遅れて入った会場で、最悪の事態を目にすることになる。