多くの打算的な令嬢たちは、自分の将来を考えて爵位と家督を継ぐ嫡男へと流れる。普通ならば騎士や実業家を職業にして身を立てる必要のある次男以降の存在には、全く目もくれないものだ。なんとか努力を重ね出世したとしても、代々の伝統ある邸と領地を受け継げる爵位には敵わない。

 ディアーヌ・ハクスリーという、彼女の名前を覚えた日だった。

 少し調べれば彼女はハクスリー伯爵の長女。ラウィーニア・ライサンダー公爵令嬢の、仲の良い従姉妹。王太子妃候補のために、王妃となるための教育を受けなければならず城への足繁く通う従姉妹の元へと、たまに遊びに訪れることがあるようだった。

 越権行為で訪問の予定を見て時間を計算し、彼女の訪れを待った。颯爽と馬車から降りて城の中へと入っていく彼女は亜麻色の髪と薄紅色の瞳を持つ、可憐な女性だった。

 彼女に結婚したいと熱心に迫られれば、十中八九の人間が頷くはずだ。自分も、きっと例外ではない。