「ふはっ」
 

 その時、どこかから笑い声が聞こえた。驚いて周囲をキョロキョロすると、お酒が回ったのか頭がぐわん、と揺れる。

「おねーさん、大丈夫?」

 揺れる視界の中に、一人の男の子が現れた。全然知らない顔だ。
「……見てたの?」
 恐る恐る彼に聞いてみると、彼は頭を掻いて頷いた。
「あー……はい。見てました。ごめんなさい」
「……笑ったでしょ」
「笑ってません……」
「嘘。笑ったわよね?」
「……はい。笑いました。ごめんなさい」
 男の子は素直に頭を下げた。まだ笑っているのか肩が小刻みに揺れている。
「おねーさん?」
 彼に顔を覗きこまれ、私は慌てて下を向く。ぽたっ、と地面に水が溢れた。
「おねーさん、大丈夫? 泣いてるの? 痛かった?」
 泣いてる? この私が? そんなことあるわけないじゃない。この七年、泣いたことなんか一度も無いんだから。
「泣いて……ないわよ……」
 顔を上げて彼を睨むと、視界が水分でぼやけた。
 ——え? 嘘。私、泣いてるの……?
 何で——
 そう思った瞬間、私は彼に抱きすくめられていた。彼のシャツから香る柔軟剤のにおいが、思考を麻痺させる。
 
「泣かないで。僕がそばにいるから」
 
 そう聞こえた気がした。でもそんなはずない。きっと、夢だ。