慣れない作業ばかりで、正直私はかなり足を引っ張ってしまったのに、ナベさんも、ヤッシーも、久保君も、誰も私を責めなかった。それどころか、「大丈夫です!」と言ってものすごくフォローしてくれた。
 
 ホットプレートで作る冷凍餃子の試作が始まってから二週間が過ぎ、ここのところ毎日帰りが遅い。圭人は約束通り毎晩ご飯を作って待っていてくれるのに、私の帰りが遅いせいで最近はなかなか一緒に食べることができていない。
 
「ただいまぁ……」

 玄関ドアを静かに開けて部屋へ入ると、ソファの上で眠る圭人がいた。食卓には、ラップのかけられた一人分の食事。待ちきれなくて、先に食べてしまったらしい。

「今日も遅くなってごめんね……」
 そう呟きながら、眠っている圭人にブランケットを掛けてやる。圭人は、んん、と言って僅かに身体を揺らしたものの起きる気配はない。約束とはいえ、毎日毎日私なんかの為にご飯を作ってくれて、何だか申し訳ない。この仕事が一段落ついたら、何かお礼をしよう。
 まだあどけなさの残る寝顔に、思わず頭を撫でてしまった。ふわふわの髪は驚くほどに柔らかい。

「ん……もえ…こしゃ…ん……」

 起きているのかと思った。でも、圭人はスースーと寝息を立てたままだ。警戒心ゼロの安心しきった寝顔。寝言でも私を呼ぶとか、何なのよ、もう。——可愛すぎて嫌になる。どうしてこんな良い子が、私なんかのそばにいるんだろう? 
 
 約束の日まで、あと一週間と少し。
 その日が来たら、圭人はここを出ていく。いつの間にか、その現実から目を背けようとしている私がいる。