「萌子さんの元彼って、タカユキって人?」
「えっ? 私、話したっけ……」

 例によって覚えてはいない。

「いや、公園で。『タカユキのあほんだら』って」
「ああ……言ったわ……」

 圭人は肩を揺らして笑っている。

「でもそのタカユキって人、見る目無いなあ。女の子だからって、みんながみんな料理上手なわけないよ。誰にでも得手不得手はあるでしょ」

 まあ、フラれた理由は料理だけじゃないことは明白だろう。貴之は単に、私と別れる理由が欲しかったに過ぎない。

「僕は萌子さんが料理上手じゃなくても全然気にしないよ?」
「そりゃどうも……」
「本当だって。だから、ずっとここにいてもいい?」
「それは駄目」
 間髪入れずに答える。
 やっぱダメかー、と言って圭人はまた笑った。そんなの本気じゃないくせに、と私は心の中で悪態をついた。