すぐに泣く女は嫌いだ。会社で涙を見せる女は特に。彼女たちは泣けばどうにかなると思っている。誰かが救いの手を差し伸べてくれると思っている。泣いて解決しようだなんて、社会人としてあり得ない。だから、そう注意しただけだ。それなのに。そのことで私は「パワハラ」認定され、あろうことか部署異動までさせられることになった。入社してから七年近く、ずっと営業部で頑張ってきたというのに。一度だって泣かずに、悔しくても頑張ってきたというのに。
 
「ったく。やってらんないわよ、ホント」
 何となく、真っ直ぐ家に帰りたくなくて、私は夜の公園でベンチに腰掛けた。傍らにはコンビニで買ったお酒の缶が数本。スーツを着た三十路女が一人、夜の公園で酒をあおる。我ながら、なかなかやさぐれた光景だ。
 
 彼——飯島(いいじま)貴之(たかゆき)は私の同期だ。貴之は明るい性格で非常に愛想が良く、他人の懐に入り込むのが上手だった。入社早々、誰よりも会社のオジサン連中に気に入られた。とにかく口が上手く、そのお陰か取引先との関係も円滑で、貴之はあっという間に営業部のエースとなった。私は彼と張り合うように仕事をしていた。貴之には負けたくなかったし、何より貴之がいたから私は頑張れた。同志、だと思っていた。付き合おう、と言われた時は嬉しかった。ライバルであり、パートナー。これからもお互い切磋琢磨していきたい、と思っていた。それなのに。
 
「貴之の、あほんだらーーっ!」
 カーン! と飲み終えた空き缶を地面に叩き付けると、それはまるでコントのように私のおでこ目掛けて跳ね返ってきた。
「いっ……たああ……」
 思わずおでこを押さえて悶える。あまりの痛さと滑稽さに、じわりと涙が滲んだ。だ、駄目! 私は泣いたりなんかしないんだから!