何、言ってるんだこの子。

「今月いっぱいで良いからさ? お願い!」
「いや……駄目に決まってるでしょ? 親御さんが心配するわよ?」

 圭人はその言葉に、少しだけ寂しそうな目をした。

「……しないよ、心配なんか。もう長いこと家には帰ってない。実は僕、大学の近くで一人暮らししてるんだけど、家賃滞納したらライフライン全部止められちゃって」
「ええ⁉︎」
「次のバイト代入るの月末なんだ。だからそれまで、ここにいさせてください! お願いします! あ、いさせてもらえるなら、僕毎日ご飯作りますから!」

 仔犬に頭を下げられ、私の中に迷いが生じた。毎日ご飯を作ってもらえるのは魅力的だ。実際、こんなに美味しいカレーを作ってくれた。……むむむ。

「……本当に、今月いっぱいなのね?」
「! 萌子さんっ!」
「わかったわよ。元はと言えば私にも責任あるし、それにカレーも作ってもらったし。でも、ちゃんと期限は守ってよ?」
「もちろん! ありがとう萌子さんっ」

 向けられたキラッキラの笑顔。ま、眩しい……! 私には眩しすぎる!

「……どういたしまして。ていうか、ホント美味しいわね、これ」

 努めて平静を装いながら、私は視線を圭人からカレーに戻したのだった。