しーんと、その場が静まり返る。ビアンカは、ハッとした。

(やっちゃった!)

 晩餐会の席で、大声を張り上げるなど、とんでもないマナー違反だ。主賓・ステファノもビアンカの方を凝視している。穴があったら入りたい気分だった。

(つまみ出される……?)

 せっかく、殿下に指南という機会を与えられたのに。騎士団寮の皆にも協力してもらったというのに、みすみすフイにするなんて。その時、ステファノの静かな声が響いた。

「ボネッリ殿。私は、海沿いのこの地へ来られたことを、心から嬉しく思う。このような新鮮な魚料理は、王宮では味わえるものではない。特に、このサーモンのパテは絶品だ」

「……光栄に存じます!」

 まだ青ざめた表情のまま、ボネッリ夫妻はひとまず礼を述べた。ビアンカもまだ固まったままだったが、ステファノが自分と同じ意見であることに、少しだけ嬉しくなった。

「だが」

 ステファノは、ぎろりとこちらを見た。その視線は、最初にビアンカを嘲笑した夫人と、その夫に向けられていた。

「気の毒なことに、レオーネ伯爵家はまともな料理番を雇えていないようだ。普段の食事が悪いゆえ、この料理の素晴らしさがわからないのだろう」

「いえ、そのような……」

 レオーネとかいうらしい夫人の夫は、蒼白な顔で、何事か言い募ろうとした。だがステファノは、それを遮った。

「食は全ての基本だ。昨年、隣国に攻め込まれた際、そなたの率いる軍は大敗を喫したな。食生活が悪いからではないのか?」

「そ、その節は大変申し訳なく……。ですが、我が家は食事に気を付けております。決して、味がわからないということはございません。今宵のメニューも、大変美味しくいただいており……」

「ではなぜ夫人は、全く口を付けておられぬのだ?」

 夫妻は、ぐっと詰まった。たたみかけるように、ステファノが言う。

「美味しいと感じている、今そう申したな。にもかかわらず料理のほとんどを残すとは、主催者を意図的に愚弄しているとしか思えぬが。そのような無礼者は、もはや私の家臣ではない」

 ステファノの声音は、いっそう鋭くなった。

「レオーネ伯爵夫妻には、今すぐこの場を退場するよう命じる!」