ステファノはすぐに、父王の元へ向かった。自室に戻ってから、ビアンカは考え込んだ。

(コンスタンティーノ三世陛下が、お亡くなりに……?)

 以前の人生では、ビアンカが死ぬ時、つまりこの二年後まで、国王は健康不安を抱えつつも生きていたのだ。死の原因となったパオラも、王の愛人ではなかった。カルロッタがずっと、彼の寵を得ていたのだ。

(おかしいわ……)

 カルロッタが断罪された理由は、ロジニアへの情報流出と、国王を裏切って愛人を作ったことだ。ビアンカをしょっ引いたことが理由ではない。そしてカルロッタのことだ、以前の人生でも、同じ行動を取っていたに違いない。ではなぜ前回、彼女は追放されなかったのだろうか。

(歴史が、大幅に変化している……!?)

 あれこれ思い悩んでいるうちに、数時間が経過した。不意に、ノックの音がする。ステファノだった。

「夜分にすまない。あの後、諸々の対応に追われておった」
「いえ、当然のことですわ」

 ステファノが訪ねてくる予感がして、ビアンカは着替えずに起きていたのだ。ソファを勧めると、彼は疲労困憊といった様子で、どさりと腰かけた。

「真の死因は、とても国民には公表できない。病死とすることで、兄上とも意見が一致した。パオラ嬢、及び家臣らには箝口令を敷いておる。そなたも、決して漏らさぬように」

「承知しております」

 ビアンカは、神妙に頷いた。

「ようやく、ゴドフレード国王の誕生だ……。恐らく国民も、待ちわびておったことだろう。私も、もう少し先なら喜べたのであろうが」

 ステファノは、何とも言えない表情をしている。ビアンカは、きょとんとした。

「どういう意味ですの?」
「喪に服さねばならないではないか」

 あっと、ビアンカは声を上げそうになった。

「一年間、私は結婚はもちろん、婚約もできない。せっかく、そなたが求婚に応じてくれたというのに」

 ステファノは、頭を抱えた。

「最後の最後まで、迷惑な父であったな……」