翌日の自主訓練は、実に気合いが入った。この後は、ビアンカの作った、筋肉増強効果のある食事が待っているのだ。機嫌良く湯浴みをすませた後、ステファノは食卓に着いた。給仕が運んで来たのは、昨日見せられたメニューにもあった、チキンのパテだった。早速、一口食べてみる。

(美味い)

 やや塩分がきつめの気もしたが、それはあえてだろう。運動をする人間には塩分は不可欠と、聞いたことがある。トレーニング後の自分に配慮したのだろう、とステファノは合点した。焼き加減も、ちょうど良い。宮廷の料理番に比べれば、見た目は地味だが、食べる人間への思いやりが伝わってくる一品だった。

(きっと騎士らにも、心を込めて作っているのであろうな)

 何だか、羨ましくなる。ステファノは、ビアンカをここへ呼ぶよう指示した。食材について尋ねたかったということもあるが、顔を見たいという思いが少しだけあるのも、否定できなかった。晩餐会での、楽しそうに食事していた姿が蘇る。さすがに食事を一緒にと言うのはためらわれたが、そばにいてもらうだけで、癒やされそうな気がした。

 やって来た彼女は、使用人服姿だった。ドナーティのせいかとも思ったが、料理番である以上、これが通常スタイルなのだろう。化粧も施していないが、かえって素朴な可愛らしさが際立っていた。

 隣に座らせ、料理の説明をさせる。ビアンカは、真面目に解説してくれたが、最後にこう言った。

「食事において最も大切なのは、楽しむことかと」

 目から鱗が落ちる気分だった。王族たるステファノにとって、食事とは、社交や外交の一手段でしかなかった。権謀術数が渦巻く中で、真に料理を味わう余裕などなかった気がする。退室させたレオーネ夫妻のことを言えないな、とステファノは反省した。

「では、そなたに毎回同席して欲しい」

 ほぼ無意識に、ステファノはそう口にしていた。彼女の顔を見ているだけで、食が進みそうな気がした。