ギャーギャーわめきながら、カルロッタが連行されて行く。ジャンは、医師の手当てを受けるため、すぐに別室へ運ばれた。それを見届けると、ステファノはゴドフレードの前に進み出た。
「帰国が遅くなり、申し訳ございません、兄上。機密条項流出に関する証拠は、全て確保してございます」
「構わぬ。お手柄であった」
ゴドフレードが、弟に微笑む。ドナーティは、恐る恐るといった様子で、ステファノに話しかけた。
「殿下? ロジニアの戦況は、一体……」
「ああ、それならもう決着はついた」
ステファノは、けろりと答えると、ビアンカの方を向き直った。
「不安な思いをさせて、悪かった。カルロッタがおかしな動きをしておると聞いて、本当はすぐに駆け付けたかった。だが司令官として、現場を離れるわけにはいかぬ。そこで取りあえず、ドナーティらを向かわせて時間稼ぎをさせたのだ。私は、戦を一段落させると共に、あの女のしっぽをつかむための証拠集めをしておった。それで少し遅くなったのだ」
「いえ、そのような……」
ビアンカは、ふるふるとかぶりを振った。言いたいことはたくさんあるのに、胸がいっぱいになって、上手く言葉がつむげない。
「殿下、本当にありがとうございました。何と、お礼を申し上げればいいのか……」
「よい。無事で何よりだ。……その髪、少し伸びたようだな」
あれから一ヶ月が経ち、ビアンカの髪は、肩に付くか付かないかくらいになっている。ステファノは、その髪にそっと触れると、ふと食卓を見た。
「おお、これは懐かしいな。そなたの料理であろう?」
彼は、空になった皿を見つめて、残念そうな顔をした。
「惜しいことをした。もう少し早ければ、間に合っていたものを」
「はい。今日は、殿下のお好きな梨で、クレープをお作りしたのですが……」
言いながらビアンカは、あれと思った。毒殺騒ぎが起きたのは、デザートに入る前の段階だった。以降はそれどころではなかったため、クレープは誰も食べていないものと思ったが……。
「ああ、ステファノ、すまぬ」
ゴドフレードが、バツが悪そうに笑う。
「ビアンカ嬢特製クレープが、あまりに美味かったものでな。私が全て食べてしまった。他の者の分まで」
(それで、どなたのお皿も空なのね……!?)
いつの間に食べたというのか。ビアンカは、唖然とした。ステファノが、心底恨めしそうな顔をする。
「兄上~!」
「いや、悪かった。あ、ジャン製のものならあるぞ? レシピはデタラメであろうが」
「誰が要りますか!」
ステファノが、地団駄を踏む。広間は一転、明るい笑いに包まれたのだった。
「帰国が遅くなり、申し訳ございません、兄上。機密条項流出に関する証拠は、全て確保してございます」
「構わぬ。お手柄であった」
ゴドフレードが、弟に微笑む。ドナーティは、恐る恐るといった様子で、ステファノに話しかけた。
「殿下? ロジニアの戦況は、一体……」
「ああ、それならもう決着はついた」
ステファノは、けろりと答えると、ビアンカの方を向き直った。
「不安な思いをさせて、悪かった。カルロッタがおかしな動きをしておると聞いて、本当はすぐに駆け付けたかった。だが司令官として、現場を離れるわけにはいかぬ。そこで取りあえず、ドナーティらを向かわせて時間稼ぎをさせたのだ。私は、戦を一段落させると共に、あの女のしっぽをつかむための証拠集めをしておった。それで少し遅くなったのだ」
「いえ、そのような……」
ビアンカは、ふるふるとかぶりを振った。言いたいことはたくさんあるのに、胸がいっぱいになって、上手く言葉がつむげない。
「殿下、本当にありがとうございました。何と、お礼を申し上げればいいのか……」
「よい。無事で何よりだ。……その髪、少し伸びたようだな」
あれから一ヶ月が経ち、ビアンカの髪は、肩に付くか付かないかくらいになっている。ステファノは、その髪にそっと触れると、ふと食卓を見た。
「おお、これは懐かしいな。そなたの料理であろう?」
彼は、空になった皿を見つめて、残念そうな顔をした。
「惜しいことをした。もう少し早ければ、間に合っていたものを」
「はい。今日は、殿下のお好きな梨で、クレープをお作りしたのですが……」
言いながらビアンカは、あれと思った。毒殺騒ぎが起きたのは、デザートに入る前の段階だった。以降はそれどころではなかったため、クレープは誰も食べていないものと思ったが……。
「ああ、ステファノ、すまぬ」
ゴドフレードが、バツが悪そうに笑う。
「ビアンカ嬢特製クレープが、あまりに美味かったものでな。私が全て食べてしまった。他の者の分まで」
(それで、どなたのお皿も空なのね……!?)
いつの間に食べたというのか。ビアンカは、唖然とした。ステファノが、心底恨めしそうな顔をする。
「兄上~!」
「いや、悪かった。あ、ジャン製のものならあるぞ? レシピはデタラメであろうが」
「誰が要りますか!」
ステファノが、地団駄を踏む。広間は一転、明るい笑いに包まれたのだった。