「子供の着替えなど別に構わないだろう」

 退室しても尚、文句を垂れる主に柊は頭痛がした。

 これが単なる頭痛であればなんてことはない。少しばかり休んでいれば収まるのだから。

「……彼女が出て行ってくれと言うのですから。女の子の内面の成長は大人が思っているよりも早いのです。着替える場に男性がいては恥ずかしいのでしょう」

「柘榴だって男だろう」

「生活をずっと共にしていた者とそうでない者と一緒には出来ません」

 未だに納得できない鳳に柊は嫌な考えが脳裏をよぎる。

 まさか、本気で蒼子さんの着替えを覗きたいと考えているのでは……?
 幼い女児の肌に興味があるのでは……?

 その肌を見て興奮し、邪な想像をしたり、まして手を出そうなどと思っているのでは……?

 そんなことを考え始めると頭痛が激しさを増し、胃にも痛みを感じる。

 自分の主がそんなおぞましい嗜好を持っているなどと思いたくない。

 見目麗しい我が主は生まれてこのかた女性に不自由をしたことが一切なく、来る者拒まず、去る者追わずのどんな女性でも確実に懇ろな関係を持てる色男なのだが。

 ここ最近、しつこい女のせいで性癖が歪んでしまった。

 連日、屋敷に連れ込まれて精を搾り取られて疲弊していた所に現れたのが凛々しくも愛らしい蒼子だ。

 蒼子の可憐な姿に傷付いた鳳は癒されたことだろう。

 目に入れても痛くないほど可愛がっている鳳だが、それは父性なのか?

 疑問が確信に変わりつつあるのを感じ、柊と椋は打ち震えている最中である。

 蒼子を抱き締めるだけならまだしも、愛しさが溢れすぎている。離れる時ははまるで根性の別れかと思うほどに切なそうで、うなされているのを見ると取り乱す。

 仕舞には着替えを覗こうとするし……。

 今一度、改めよう。

 頭痛がする。

 主を幼女(ロリ)性愛者(コン)にする訳にはいかない。

 本来であれば鳳はこのような場所に居るべき人ではないのだ。

 彼は戻りたいとは言わないが、いつかは戻らなければならない場所がある。
 誰よりも高く、光り輝くその場所に。

 柊と椋は鳳の剣であり、盾なのだ。

 いつかは戻ることになるその日の為に。
 柊は自分の使命を改めて心の中で反復する。

 いや、戻る場所がどこであっても幼女は駄目だ。

 身分があろうが幼女は駄目だ。

 主が人の道を外すことがないように私達がしっかりしなくては……。
 そうしてやはり頭痛がする柊であった。